大学に入りたての私にできた友人、M子。
彼女はいわゆる帰国子女で、地方で育った私にとって異色の人物だった。
私の考える常識からははみ出た、突飛な発言や行動。
頭の回転が速く行動力もあり、今までに見たことがないタイプ。
思うことはストレートに口に出し、「ブランド品はロゴが見えるのはカッコ悪い」
「スチュワーデスは女中」
そしてなにかと「星野、あなた最高!」と抱きついてくる。
育った環境があまりにも違ったのに、彼女はいたく私を気に入り、くっついてきた。
話を必死に合わせながら背伸びをし、私はしょっちゅうドギマギしていた。
外国生活が長く、今も横浜の山の手暮らしの彼女は、私の知らないことやものをたくさん知っていた。いろいろなものが素敵に見え、誘われるがままに過ごしていた。
夏休みには実家に帰った私のもとにフランスのヌードビーチから絵はがきを寄こし、「あなたもここで裸になるといいわよ」
けれど長い休みも終わり、私にも少しずつ、彼女の知らない毎日ができていった。
浮ついた新しい生活も、落ち着いていった。
あるとき、彼女に貸していた文庫本『グレート・ギャッツビー』の返却を催促した。
「ごめん、ごめん」と、たいして悪そうでもなく鞄から取り出されたそれは、びしょ濡れになったあと乾いたとわかる、波打った、あわれな状態だった。
それから少しずつ、そっと、彼女と距離をとっていった。
夏の文庫フェアに並ぶ『グレート・ギャツビー』を見ると、東京に出たころのはじけた楽しさと、ほろ苦さがよみがえる。